行くな、行ってはいけない
「あ、ごめん。明日早いんだ」
だから無理。
一護の纏う浴衣の帯を解こうとした京楽の手が止まった。
日付を跨ごうという時刻。一護のつれない言葉に京楽は情けないほどに眉を下げた。
「一昨日もそう言ってなかった?」
「そうだな」
「その前もその前もその前もだったよね」
「そうだっけ」
「もう一週間ごぶさたなんだけど」
一護が目を逸らす。さすがに悪いとは思っているらしい。
「だってよ、今は本当に忙しいんだ。仕方ないだろ」
「浮竹は何してんの」
思わず親友に対しての恨み言が溢れた。
「せっかくこうして一緒の家に住めるようになったのにっ」
年甲斐もなく嘆いてみせる京楽を一護が抱きしめてやると、そのまま布団の上に押し倒されてしまった。唇を軽く啄まれ、さあ本番とばかりに体に手を這わされたところで一護は顎を逸らすように押しのけた。
「だから、明日は早いんだってっ」
「一護ちゃあん」
「そんな声出しても駄目だ」
「‥‥‥‥ほんとに駄目?」
「駄目」
同情を引く作戦も失敗し、京楽はがっくりと崩れ落ちた。だがそれでも一護を離そうとはしない。胸に顔を埋めて柔らかい感触を堪能する。一護もそれを嫌がらず、手を握るだけで頬を染めて焦っていた頃と比べると格段の進歩だった。
同棲を始めて一ヶ月。本当は結婚してもよかったのだが一護のほうがどうやら踏み切れないでいるらしい。ならばせめて少しでも一緒にいられるよう京楽は同棲を申し出た。今では妹二人も一緒に暮らしている。
「どうする? 何もしないんなら一緒に寝てもいいけど」
「自信がありません」
「じゃ、俺妹んとこ行ってくるわ」
あっさりと京楽をどけると一護は立ち上がり部屋を出ていった。
寂しくないようにと一護は一日おきにそれぞれの寝室を行き来していた。共に寝ることができるのは二日に一度。だが最近一護は忙しいらしく、いわゆる夜の営みというものは京楽にとって一週間前の記憶以来訪れていなかった。
「もしかして、避けられてる?」
ぽつりと零した言葉に答えてくれる唯一の人はいるはずも無く。
結婚も秒読みか、そんな幸せの中に浮上した危機に京楽は人知れず震え上がった。
いつものように浮竹が寝床に入って微睡んでいるときだった。視界に移る己の髪をぼんやりと眺めているとなにやら騒がしい足音がこちらへと近づいてくる。
うちの第三席か、だが足音は一つ。常なら二つ、競い合うように近づいてくるのだからそれは違うと打ち消した。
「浮竹!!」
比喩ではなくまさに障子を蹴破って入ってきたのは同期の親友。
だがその親友の余裕の無さに驚いて、浮竹はすっかり目が覚めてしまった。
「なんだ、騒がしい」
「浮竹、吐くんだ!」
「はあ?」
「吐け!」
「血なら先月吐いたが」
「あれは結局鼻血だったでしょ!ってそうじゃなくてっ」
ちぐはぐな会話に京楽は頭を乱暴に掻きむしった。騒がしい親友に反して浮竹はのんびりと体を起こすと事情を聞いてやることにした。
「で、何を吐けばいいんだ」
「どこにいるの」
「誰が」
「一護ちゃんだよっ!!」
馴染みの第三席二人に勝るとも劣らない大声に浮竹は眉はひそめた。だが親友の自分がこれまで見たこともないようなその鬼気迫る様子に、こちらも真剣に話を聞く。
「そういえば一護は今日来ていないな」
「今日じゃない。昨日の夕方からいないんだよ」
「どうしてそんなことを知って、‥‥‥まさかお前達」
ばつの悪そうな顔をしている京楽を見て浮竹は気が付いてしまった。
「ど、同棲、みたいな?」
小リスのように首を傾げるものの190cmを超える長身に髭も相まって可愛くないことこの上ない。むしろ怒りを増長させる仕草に浮竹の目が吊り上がった。
「それで、どうしていなくなってしまったんだ」
わずかに低くなった浮竹の声に京楽は怯みそうになりながらも一護を見つけるため、言葉を続けた。
「分からないんだよ。家に帰ったらもぬけの殻で、荷物もいくつか無くなってた。最近、避けられてるかな、とは思ってたんだけど」
まさかいなくなるとは思いもしなかった。自分が何か気に触ることでもしてしまっただろうか。常日頃から女性にだらしないと言われてはいるが、一護に想いを寄せるようになってからは他の女性は目に入らなかった。一護だけだと、天にも地にも、そして愛しい一護自身にも誓ったというのに。
「もう、本当にどうしたら‥‥‥」
頭を抱えて落胆する京楽を見て、浮竹は黙って同棲していたことへの怒りはとりあえず忘れることにした。
「腑抜けている場合か。一護を探すんだろう?俺も協力してやるからしゃんとしないか」
「浮竹‥‥‥」
やはり頼るべきは親友だ。怒鳴り込んで障子を蹴破ってしまったが、後でちゃんと直しておこうと京楽は心に決めた。
「なに、心当たりはある。一護が頼るとしたらあそこしかないだろう」
病弱な親友が光り輝いて見える。京楽は思わず拝みたくなった。
「帰るがよい」
顎を逸らし、傲慢ともとれる態度で夜一は言ってやった。
その言葉に京楽の笑顔がひくりと引き攣った。まさに出鼻を挫かれた格好になったのだが、ここで諦めるほど男は廃っていない。
「いるんでしょ。会わせてもらえないかな」
なぜ夜一の許可が必要なのか甚だ疑問だったが、ここで会えずに帰ることなどできないし、とりあえずは下手に出ることにした。強行突破は最終手段として取っておく。
「何を言っておるのか分からんな。訳の分からんことをほざいておらんでとっとと帰るがよい」
門まで出てきてやっただけでも感謝しろと言わんばかりだ。女性相手に怒りを覚えることなど皆無に等しい京楽だが、今だけはこの小さい体を乱暴に押しのけてでも一護に会いたい衝動に駆られてしまう。
「お願い。会わせて」
怒りで声が震えそうになるが、それを押さえて再度乞うた。
だが一護の姉代わりとも言える夜一の意志は強固なもので、同じくこちらも視線に怒りを込めると猫のように目を細めて京楽を見やった。
「一護がここにいるとしよう」
実際にはいるのだが夜一はあくまでとぼけてみせた。
「なぜ貴様のもとを離れたのか」
とん、とひとつ地面を足打つ。
だが京楽は夜一の疑問に答えを持ってはいなかった。沈黙の中、とん、とん、と夜一が地面を足打つ音だけが響いていた。
「愚か者め」
最後にだんっ、と強く足を打ちつけて夜一は踵を返そうとする。それを京楽は慌てて引き止めた。
「頼むよ、会わせてくれないか。このまま終わりだなんてあんまりだ」
「もう終わりだと言うておる。男なら去った女をみっともなく追いかけるような真似はよせ。見苦しいばかりじゃ」
「見苦しくてもっ!」
会いたいんだ。
目の前の夜一に言っているのではない。焦がれるように発した言葉は今はいない、一護に言ったものだった。
相変わらず睥睨している夜一に向かって、京楽はついに斬魄刀の柄に手を掛けた。
だが緊張が高まったとき、場にそぐわない声がかかった。
「‥‥‥夜一さん、」
一護か、そう思って勢いよく顔を上げるとそこにいたのは愛しい少女ではなく、その愛しい少女の幼い頃を思わせる容貌の黒髪の子供が立っていた。
「夏梨、ちゃん」
京楽に気まず気な視線をやると、次いで夜一に視線を合わせた。
「出てくるなと言うたであろう」
ため息をついて嗜めるが、夏梨が次に何を言うかもう夜一には分かっていた。
「会わせて、あげてよ。一姉も会いたがってる」
「そう言っておったのか」
「言葉にはしないけど。妹だから、分かるよ」
夜一にも分かっている。血は繋がらぬとはいえ、姉同然だ。一護が本当はこの男に本心では会いたいと思っていることは重々承知していた。
だから試したのだ。
一護だけではない。京楽も同じくらい、いやそれ以上に想っているのかどうか。
帰れと言われてそのまま帰るのなら問題外だ。己を蹴散らしてでも行こうとする気構えが無ければ、夜一のほうが京楽を蹴散らしていただろう。
及第点を与えてもいい。顎をしゃくり、屋敷の中へと導いた。
「よかろう。京楽、付いてこい。一護に会わせてやる」
偉そうな物言いに腹など立たなかった。むしろやっと会えることの喜びのほうが勝っていた。
「だが、ひとつ」
斬るような視線をよこして夜一は再度試すように言葉を紡ぐ。
「貴様は捨てられるか、すべてを。一護の幸せを守るため、すべてを捨て去ってもよいとそう思えるか」
悩む必要などなかった。
「もちろん」
即答。
それを聞いて夜一は初めて目の前の男に笑顔を向けた。
「それでこそ男というものじゃ。惚れた女は死んでも離すでないぞ」
京楽の屋敷を背景に、夕暮れの赤い空の下を一護は妹と三人、当ても無く歩き続けていた。
「いいの? 黙って出てきて」
「そうだよ。どこに行くっていうんだよ」
一護は黙って二人の手を引いていた。身の回りのものは必要最低限のものしか持ってきていない。
険しい表情の姉に妹二人も困惑気味だった。
「帰ろうよ」
「おっさん、心配すると思うよ」
近い将来、義兄となる男に置き手紙一つ残さず屋敷を出てきてしまった。突然一護に言われて二人はよく分からないままに付いてきたのだが、時間が経つにつれてこれはよくないと思いはじめてきた。
「ねえ、」
「帰らない」
「え」
ぎゅ、と繋がれた手に力がこもっていた。
「あそこには帰らない。俺達はまた三人で暮らすんだ」
「どうしてっ!?」
信じられない言葉を聞いて、二人は絶句した。だがすぐさま正気に戻ると、姉を止めるべく繋がれた手を後ろに引っ張った。だがその細い腕はそれを許さないとばかりに、幼い妹二人を引きずっていく。
「待ってっ、どうしてなのか分かんないよ」
「おっさん、なんも知らないんだろ、なんで黙って出ていくんだよ」
姉が京楽と同棲することになったときは素直に喜んだ。それで自分たちは、という不安は感じる暇さえ与えず、京楽はせっせと三人分の荷物をまとめ始めていた。そのときどれほど泣いてしまいそうだったか、京楽は、目の前の姉は知っているのだろうか。
「やだよ、やだっ!」
ばしばしと空いた手で一護を叩く。それにふらりともしない一護の体に、それでも持てる力のすべてでもって二人は暴れ続けた。
「夏梨、遊子、また元の生活に戻るだけだ。俺がちゃんと養うから。不安になることなんて何一つ無いんだ」
「私達じゃなくて、一姉が心配なんだよ」
ときおり恐ろしい目をする姉がたまらなく心配だった。その目を向けられたことは一度もないが、そんな目をしてほしくなかったし、他の誰にも向けてほしくなかった。
変わったのは一人の男のお陰だった。
そんな姉が、愛する人を置いていくのか。置いていっていいのかと夏梨と遊子は必死になって訴えた。
「振り回してごめん」
でもこうするしかないのだ。
「ごめん」
「お姉ちゃん、」
「一姉、」
そんな悲愴とも言える表情をされてはこれ以上の抵抗などできはしない。大人しく付いていくしかなくなった二人に、一護は心の中で何度も謝った。
だがその体が突如として傾ぐ。
「お姉ちゃん?」
「う、」
地に倒れる姉につられて妹二人の体も引っ張られた。突然のことに息を呑む。目の前で顔色を徐々に青ざめていく姉を見て体が震えた。
「だい、じょうぶ、だから、」
微笑む姉に涙腺が緩んだのか、不安と恐怖で遊子が涙を流した。それを拭って一護はなおも微笑む。
「俺は、駄目だな、泣かせるなんて、」
姉失格だと笑ってみせるものの、紙のように白い顔は生気を失っていく。
「どう、しよ」
「人、呼んでこなくちゃ、」
震える声でそう言うものの辺りに人影はなく、またどこに人を呼びに行けばいいのか頭が混乱して地理が少しも浮かんでこない。
「すぐ、治るから、」
だがそう言って体を丸める一護の体温は驚くほど冷たくなっていた。それなのに汗をいっぱいにかいている。尋常ではない様子に二人はますます混乱した。
「うぁっ」
痛みに耐えきれなかったのか一護が苦痛の声を上げる。咄嗟に押さえられた腹部を見て夏梨と遊子は同時に目を見開いた。
「春水さん、」
無意識に呼んでいるのか、だが包んでくれるただ一人の人はここにはいない。
「夜一さんの家、ここから、近いよなっ」
「あたしお姉ちゃん見てる、夏梨ちゃんっ、」
「連れてくるっ!」
夏梨のほうが断然足は速い。裾が絡げて足が露になるのも構わずに、全速力で駆け出した。視界がぼやけてしまうのを必死になって払う。泣いている場合ではない。
死なないでくれと、流す涙を転々と落としながらただひたすらに助けを求めた。
ああ、これは悪夢だ。
目覚めなければと思うのに、悪夢は必ず最後まで繰り返される。
『ご自分の身分をわきまえてはいかがか』
侮蔑の視線を一護は感情の籠もらない視線で返してやった。
『更木などと、犬畜生の住まいではないか』
『生きてるのは人間だ』
たとえ地べたを這いずり回っていようとも、あそこで生きているのはまぎれもなく人間だ。犬畜生などとは言わせない。
冷たい焔を燻らせて一護は目の前の者達を見据えていた。
『恐ろしい目だこと。育ちが知れますわね』
お前の性根も育ちが知れる、そう言ってやりたかったが言ってもどうせ理解できないだろう。いっそ哀れなほど他人の心を介さない者達に、一護は同情さえした。
『春水様と一緒になれるなどと本気で思っているのか。誰も認めはせん』
『誰かの許可が必要なのか』
人を愛することに。
一体誰の許しが必要なのだと言うのだ。
『跡継ぎとは言わないが、春水殿は立派な京楽家の直系だ。貴様のような一介の死神、それも流魂街出身の者を我ら一族に入れられると思うのか』
『入るつもりなんてない』
上級貴族の出身だと誰かから聞いていた。だがそんなところを少しも誇示しない京楽に、その情報はいつしかどうでもいいものとして、一護は今の今まで忘れていたほどだった。
『では家を捨てさせるつもりか』
『なに、』
『親兄弟を捨てさせて、一緒になるとでも?』
一護の驚きの表情がおかしかったのか一斉に笑い出した者達に、だが一護の耳にはその嘲笑は少しも聴こえてはいなかった。
家族を捨てさせることになる。
その事実に頭を殴られたような衝撃が一護を襲っていた。
『卑しき者よ。その頭でよく考えてみるがいい』
『犬畜生でないというのなら、すべきことは分かるであろう』
『俺は、』
春水さん。
そう下の名で呼ぶとこれ以上の幸せは無いとばかりに微笑んでくれた。その笑顔を見るとじわじわと胸が温かくなって、目の奥が熱くなるのだ。
これが愛しいというのかと、浮き立った気持ちを今でも覚えている。
『俺は、』
あの人の幸せを願わずにはいられない。
己の幸せをちぎって譲ってやりたいほど、そう思っている。
そう思っているんだよ、春水さん。
「おはよう」
まだ夢を見ているらしい。愛しい人がおはようと言って自分を見下ろしているなんて。
でもなんて幸福な夢なんだろう。このままずっとこの夢に浸っていたい。
「恐い夢を見たんだ」
そうではない、あれは現実で、そしてこちらが夢なのだ。
「そう。でももう大丈夫だからね」
「うん」
その低い声が好きだ。その声音で愛を囁かれるとすべてが溶けきって、ただ幸福感だけが残ってしまう。
「もうどこにも行かないで。君がいないと、僕は虚のように穴が空いて死んでしまうよ」
「‥‥‥俺も」
現実では一緒にはいられないから、せめて夢だけでもと一護は本心を吐露する。
「離れたくないよ。だから、夢の中だけでもいい。一緒に、いさせてくれ」
「夢だけとは言わずに、いつだって一緒にいるよ。さあ、起きて。一緒に家に帰ろう」
駄目だ。起きてはいけない。
起きれば残酷な現実が待っているのだから。
「俺はこのまま眠ってるよ」
「一護ちゃん」
名を呼ばれた。一護は自然と笑み崩れて、ぼやける愛しい男の頬をなぞった。
「幸せに、なって‥‥」
言われた瞬間、一護の手を握って京楽は泣いた。堪えきれない嗚咽が何度も溢れた。
それをぼんやりと見て、やはり夢だと思った。この男が泣くところなんて、見たことが無いのだから。
だがどうしてか、心は満ち足りていた。己のために泣いてくれている男が愛しくてたまらない。泣き続ける男を一護は柔らかく見つめていた。
「君無しの幸せなんて、考えられない。そんなの、幸せじゃない」
「‥‥嬉しい」
嗚咽まじりの告白に一護の胸は優しく締め付けられた。
「あんたを愛してるよ」
そう言って一護のほうから口付けた。涙に濡れる頬を包んで、ああ、これが最後の口付けかも、なんて考えながら。そうして夢の中でも温かい体温に、胸が幸福感で一層締め付けられた。
「一護ちゃん、‥‥‥一護、一護」
布団に体を押し付けられて一護は激しく唇を奪われた。苦しさに涙が滲む。この甘い苦しみを感じたまま死んでしまえたらと、本気でそう思えた。
帯を解かれて胸に触れられる。知っている指の感触に快感と懐かしさがこみ上げた。
「春水さん‥‥‥」
涙目に見上げられて京楽は微笑んだ。そして一護の寝衣の裾を払って太腿に手を這わせた瞬間。
「そこまでじゃ」
どかりと横面を蹴り飛ばされた。完全に気を抜いていたので京楽はそれをまともに食らい、壁まで吹き飛ばされてぐしゃりと崩れ落ちた。
突然の出来事にさすがの一護も覚醒する。
そして目の前の光景に、今までのことは夢ではなかったのだと理解した。
「他人の家でことに及ぶとはなにごとか」
「だってっ!ここでいかなきゃ男が廃るでしょ」
蹴られた顔をさすりつつ、ぽかんと傍観する一護に近づくと京楽はあらためて最初の言葉からやり直した。
「おはよう」
夢ではない。
確かめるように京楽に触れるとまぎれもない、熱を感じた。握り込まれた手からも優しい力が伝わってきた。
熱いものがこみ上げてきて、ほとほとと雫が落ちていった。
「君が家。僕は、なんだったっけ」
いつか自分が言った言葉だった。
「君のいる家に帰りたい。もう独り寝は嫌だよ」
戯けるような仕草をしてみせる京楽を見て、一護も笑った。涙でぐちゃぐちゃの顔を構いもせずに抱きしめられて、一護は広い背中に腕を回した。
「おかえり」
「‥‥‥ただいま」
ちぎった幸せ。
今たしかに、繋がった。