第一章

  四、刃が鳴る  


 人気の無い城の外れにその気配はあった。
 日は既に暮れて、空はもう闇に染まっている。辺りからは虫の声が聞こえるそんな中、一護は必死の形相で塀にしがみついていた。
「ほれほれ、上様頑張れ。あともうちょっとじゃぞ」
「夜一っ、口だけじゃなくて手も貸せよ!」
 塀近くに生えている木によじ上ったまではよかったのだが、そこから先が一護にとっての試練だった。敵の侵入を阻む造りをしたその塀は、脱出することもまた容易ではなかったのだ。
「上様、すごい顔じゃぞ。笑顔笑顔」
「手伝え!」
「儂は御庭番じゃ。本来なら木に上ろうとする時点で止めておるのに」
 しかしそれをしないのは、夜一もまた楽しんでいるからだった。
 ぱん、ぱん、と適当な応援の拍手を送られながらも、一護はふぎぎぎと歯を食いしばり、ついには塀の淵に手を掛けた。
「おぉ!」
「っも、少し‥‥っ」
 一足先に塀の上へとひらりと飛び乗った夜一の応援にも熱が入る。
 あと、ほんの少し。












 なにやら随分と賑やかだ。
 人気のないところを選んでの逢い引き中、京楽はふと顔を上げた。
「京楽様?」
「し。黙って」
 人差し指を唇に当てさせると、女はぽっと頬を染めた。京楽は感覚を研ぎ澄まし、気配の元を探る。

『うわっやべっ、刀が引っ掛かった!』
『上様、足! 足を掛けるのじゃ!』

 賑やかどころではない。煩い。
 京楽は訝しむ女に断りを入れると、滑るようにして気配のほうへと歩いていった。その際、派手な柄の羽織が翻る。大奥でも特に華やかな衣装を纏う洒落者と有名な京楽の出で立ちに、女はぼんやりと魅入っていた。
 しかし当の本人は、そんな女を一度も顧みること無く、新しく見つけた興味の対象へと突き進んでいく。次第に声が大きくなり、京楽は口元に笑みを敷きながら、その先を目指した。
「夜一っ、助けろっ、」
「では脱走を諦めるか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「ほーれほれほれ、早く言わぬと落ちてしまうぞ」
「つつくなよ!」
 塀の淵にしがみつき足をじたばたさせる人物と、その上でつんつんつついて挑発する人物の、計二人。
 京楽はその二人をよく知っていた。塀の上にいる人物とは何度か言葉を交わしたことがある。もう片方の目立つオレンジ頭のほうは、直接言葉は交わしてはいないものの、いつも遠くのほうから眺めていた。怒った顔も泣いた顔も、寂し気な顔も、すべて知っている。
「っだ、だめだっ、もう、落ちる‥‥っ」
 伸びきった腕は限界を知らせていた。そのまま落ちても大した怪我にはならないだろうが、見過ごせるものでもない。京楽がするりと近寄ると、塀の上にいた夜一がはっと目を見開いた。
「危ないよ」
 両脇の下に手を入れて、そっと下ろしてやった。随分と軽い。
 それに少し驚くものの、今の一護の姿を見てなるほどと頷いた。何重にも着重ねした女に比べれば、確かに今の一護は軽い筈だ。一体どこから調達してきたのか、一見して安物と分かる羽織袴を身に着けていた。
「あ、こりゃどー、も‥‥‥‥」
 目が合った瞬間、一護の表情が凍り付いた。京楽はにこにことそれを見下ろしながら、頬に付いた汚れを手で拭ってやった。
「初めまして、上様」
 極上の笑みで、挨拶をした。












「すごいな、あんた」
 城の大門を振り返りながら、一護は感心したように言った。
「いやあ、お易い御用だよ」
「あんなに堂々と出られるなんて驚いた。慣れてるみたいだったけど」
 京楽は笑って肯定した。ちょっとした心遣いを門番に握らせてやったに過ぎないのだが。
 それに大門よりも、裏門や普段使われていない役人専用の門のほうが監視の目は厳しい。そちらを使っていれば、この上様はあっという間に見つかっていただろう。
 隣では一護がうきうきとした足取りで歩いていた。そんなにきょろきょろとして、周りにはお上りさんだと思われているに違いない。
 そのお陰か、まさかこの子が将軍だとは誰も思いはしないだろう。腰に下げている刀が不釣り合いなほどに立派だが、一般人が見ればどこぞの貧乏な若侍にしか見えない。
「ねえ、どこに行きたい?」
「‥‥‥さあ。来るのは初めてだから、よく分かんねえや」
「あ、だったら遊廓にでも行‥‥‥ってぇ!」
「京楽さん?」
「あはは〜、いやいや何でもないよ」
 背後から投げられた小石が京楽のこめかみに命中した。苦笑いしながら見た先には、変装した夜一が「余計なことを言うな」と唇を動かしていた。
 それに「分かった、分かった」と手をひらひらさせて答え、だったら芝居にでも、と一護を見る。しかし、そこには全然知らない娘さんが立っていた。
「‥‥‥‥‥あれ?」
 遠くのほうで「馬鹿者!」と聞こえてくる。自分だって見失ったくせに、という反論は後にする。京楽は慌てて首を巡らせて一護を探した。このときばかりは己の長身がありがたい。
 一護はすぐに見つかった。夜でも目立つオレンジ頭が、人垣の向こう、屋台の前で佇んでいる。
 そして悪いことは重なるものである。柄の悪い風体の男数人が一護を囲み、そのまま狭い路地へと連れ込んでいった。
「どいて!」
 人ごみを押し分けようとしたが、逆に押し返される。なんでこんなに混んでいるんだと怒鳴りそうになったとき、上空をひらりと影が舞った。
「夜一君!?」
「この役立たず!」
 ついでに暗器を投げつけられて、京楽はうわっと飛び退いた。












「良い刀持ってんじゃねえか」
「え、これ? マジで?」
 へ〜そんなに良いやつなのか、と一護が暢気に言うものだから、破落戸達は一瞬呆気にとられてしまった。しかし気を取り直すと、一護を壁際へと追いつめる。
「よこせ。痛い目見たくねえだろ」
 その言葉に、一護は目を丸くした。相手はそれを怯えと取ったのか、にやにやと笑い出す。
「おら、よこせよ」
 相手は六人いた。一護は一人一人を見回すと、ぱんっ、と手を打ち指を差した。
「カツアゲだ」
「‥‥‥‥は?」
「すげえ」
 なんだこいつ、というのが破落戸達の共通の思いだった。なんか変なのに絡んでしまった、そう表情に乗せて、それぞれの顔を見合わせた。
「っい、いいからっ、その刀をよこせ!」
 一人が無理矢理奪おうと手を伸ばしたが、一護はそれを払い落とした。
「初めてのカツアゲに感動したけど、それとこれとは別だ。誰がやるかよ」
 一歩下がって一護は構えをとる。「感動したのかよ!」と一人につっこまれたが、空気はぴりりと張り詰めた。それでも田舎にいた頃は、別の剣道場の門下生相手にルール無しの喧嘩三昧だった一護には余裕があった。金的、目潰し、猫騙し、手なんていくらでもある。
「このガキ!」
 一人が動いたのを皮切りに、一護は鞘に納めたままの刀を振り上げた。



「ガキ一人に何やってんだ」
 最後の一人を打ちのめしたとき、背後に立つ気配に一護は気がついた。いつの間にか暗い路地に男達が立っている。顔は見えない、おそらく三人。
「強いねえ、お名前は何て言うの?」
 可愛らしい声が飛び出したのには驚いた。思わず一護は目を凝らして相手を見る。
「ねえねえっ、名前は」
「やちる、黙っとけ」
 影が動く。一護は構えたまま、男の動きを注視した。
「‥‥‥‥うわ、」
 でかい。
 京楽も背が高かったが、この男はそれの更に上を行く。後じさった一護だが、すぐに壁にぶち当たってしまった。
「良い刀だ」
 僅かに抜き払った刀身を見て、男が言った。暗過ぎて顔までは分からない。けれど笑っている気配は感じた。
「家宝でも持ち出してきたのか、坊主」
 そんなに良いものなのかと一護が刀を見下ろしたときだった。胸ぐらを掴まれ引き上げられる。足が宙を蹴り、一護はぐうっと息を詰めた。
「軽いな」
「っう、はぁっ、離せっ、」
「なんだお前、匂うぞ」
「に、におう!?」
 男の顔が近づいて、一護の肩口に鼻先が触れた。近すぎる距離に一護は暴れまくる。
「匂うんじゃなくて、馨るっていうんですよ」
 静観していた男が、髪をかきあげながら近づいてきてそう言った。
「香を嗜むなんて、下級の武士ではあり得ませんよ。これはもしかして大物を釣り上げたのかも」
「そうなのか、坊主」
 一護はぶんぶんと首を横に振った。まさか将軍だと言っても信じてはもらえないだろうが、言うほどバカでもない。
「でもこんな業物、そうそうお目には掛かれねえっすよ」
 さらに一人の男が一護の刀に触れて言った。
「し、知らねえよっ、そこら辺にあったやつを適当に持ってきただけだっ、」
「‥‥‥へえ。そこら辺にこんなお宝が転がってるんだ、君の家」
 墓穴。
 一護はあわあわと意味も無く手を動かした。怪しいことこの上ない。
 こんなことなら破落戸についていかず、振り切れば良かった。面白そうだと思って素直についていった自分を殴りつけてやりたい。
「どうしますか、勾引して金でも頂戴します?」
 なんだか話がヤバい方向へと進んでいる気がする。定時までに戻らなければ、城の者に不在がばれる。
 胸ぐらを掴む男の手を引き剥がそうとしたが駄目だった。さらに力が入って衿が締まる。げほっ、と咳き込み涙も滲んだ。
「剣ちゃん、苦しそうだよ」
 子供。可愛らしい声の正体は、幼女と言って差し支えのない少女のものだった。どうしてこんな奴らと一緒にいるんだと思いながらも、「剣ちゃん」と呼ばれた男の意識が少女に移るのを一護は見逃さなかった。
「ーーーっ、てめえっ」
 ひゅっ、と空気が鳴った。隠し持っていた小刀が空気を裂いた音だった。それは男の腕を軽く傷つけ、同時に緩ませることに成功した。
「待て!」
 既に倒した破落戸達を飛び越え、一護は大通りを目指す。人ごみに隠れてしまえば逃げるのは簡単だ。
 大丈夫、道は覚えている。似た外観の路地を二度、三度と曲がって、遠くに見える通りの明るさにほっと息をはいた。
 そのときだ、通りの明るさが遮られたのは。
「裏道。いくらでもあるんだよ」
「まあ、よく逃げた。おサムライって奴はどいつもこいつも気に入らねえけどな、お前は見込みあるぜ」
 何の見込みだ。
 一護が間合いを取ろうと一歩下がる。すぐに壁に背中が触れ、嫌な汗が浮かぶ。
 しかし壁だと思ったものが妙に生暖かいことに気がついて、汗どころが一護の体に震えが走った。
「血を出したのは久し振りだ、坊主」
 刃が鞘から抜ける、独特の音が背後でした。振り返れば斬られる。敵わないと、最初から敗北した気持ちにさせられる相手に出会うのは初めてだった。
 それでも前に屈み、構えをとってしまう自分に一護の顔は歪んだ。苦笑したつもりだったが、そんな余裕もない。額から流れた汗が目に入るのを防ぐように、一度だけ目を瞑った。
 柄を握る掌に力を込めた、その瞬間。

「離せ京楽っ、もう我慢ならん!」

 がく、と一護の体が傾いた。緊張の糸が切れてしまった。
「そこのゴロツキ共っ、一護から離れろ!」
「夜一く〜ん、なんかすっごい空気ぶち壊してるよ、僕達」
 屋根の上からした声に、一護は今度こそ大きく息を吐いて力を抜いた。
「京楽か?」
「やあ、剣八君」
 よっこいしょ、と言いながら地面に降り立った京楽と男は知り合いだったらしい。しかしその事実に驚く体力は、もはや一護には残されてはいなかった。続いて降り立った夜一が気遣うように一護の頬を撫で、頭を抱きしめてくれた。
「あ、剣八君、ちょっと待っててね」
 夜一の柔らかい胸に一護が安心しているときだった。首根っこを掴まれ、後ろに引っ張られる。
 直後に、ぱしっ、と頬を打つ音がした。
「どうして助けを呼ばなかったんだ」
 打たれた左頬を押さえ、一護は京楽を見上げた。どうしてそんなに怖い顔をしているのか、分からなかった。
「自分一人でどうにかできると思った? 相手の力量も見極められないほど馬鹿なのか」
 もう一度打たれた。今度は右頬。一護は両頬を押さえて言葉も出ない。
「無謀な主は、仕える人間を脅かす。退かないことが勇気だと勘違いするな」
 さらに手が振り上げられて、一護は身を竦めた。しかし襲ったのは衝撃ではなく、優しい抱擁。
「‥‥‥‥‥なんてね、嘘だよ。僕が最初にぽかをしたんだ。見失ってごめんよ」
「あ、」
「怖かったね。一人にさせて悪かった」
「う、‥‥っく」
 喉の奥がひりひりとした。一護は目に力を入れて、決して零すまいと我慢する。
「いいよ、泣きなさい。誰にも言わないから」
「‥‥‥‥っ、ひ」
 縋り付きたいと心は動く。その広い胸に飛び込んで、羽織をしっかりと握りしめ、頬を擦り付け思い切り甘えたい。
 それなのに、一護は腕を突っ張っていた。まるでもう一人の自分がそうしたみたいに、一護には初め現実感が感じられなかった。けれどそう動いた自分の気持ちを、一護はじわじわと水がしみ込むように、やがては理解することができた。
 目を瞠る京楽から離れ、一護は立ち上がった。
「帰るぞ、夜一」
 付き従うように夜一が動く。それを当然のように受け入れて、一護は城へと一歩足を踏み出した。













「僕はこれでもねえ、モテるんだよ。すっごく」
 最後の言葉を殊更強調して、京楽は言った。
 一夜明け、城の一室で二人は向かい合っていた。
「知ってる。女中の人達があんたの噂してるところ、聞いたことある」
「でしょう? 抱かれたい殿方第一位なんだよ!」
「嘘吐け。遊ばれたい男第一位だろ」
 そうとも言う、かもしれない。
 一護の冷たい反応に、京楽はしょんぼりと項垂れてみせた。が、一護にはまったく利かなかった。それだけでなく、贈り物の反物にだって目もくれない。
「ねえ、一護ちゃんは何が好き?」
「大根」
「だっ、‥‥‥‥そう、大根はいいよ。大根みたいに白い足は好きだよ」
 ちらりと見た一護の足は袴に隠れて素肌すら見えなかった。
「他には?」
 聞いてどうする、一護の妙に乾いた声が投げかけられた。京楽は表面上は緩やかに笑ってみせていたが、内心では驚いていた。
 昨日と違いすぎる。正確には突き放される以前とは。
「君が望むなら、なんだって贈ってあげたいんだ。そうしたら君は笑ってくれるだろう?」
 笑顔だ。この子には笑顔が決定的に欠けている。
 子供っぽい素顔を見せはしても、気を許した心からの笑みは決して見せない。おそらくこの城にいる者は誰も、夜一でさえも見たことがないのだろう。
「君の笑顔と引き換えだ。なにが欲しい?」
 女性を蕩けさせる、意図してつくった甘い声。この声に掛かれば、女達は誰もがその白い足を開いてくれる。
 一護もそうであってほしいと思う反面、絶対にそうはなるなとも思う。だからこそ試したい。この本気の色仕掛けに落ちるのか、それとも。
「あんたは何が欲しいんだ」
「え‥‥」
「言ってみろ。なにが欲しい? 本当に欲しいものを、俺が与えてやる」
 脇息に肘を預け、一護は目を細めて京楽を見つめていた。
 本当に欲しいもの。自分が、望むもの。
 分からない。駄目なんだ、そんなものは。‥‥見つからない。欲しいものなんて、本当は何も。
「‥‥‥‥降参」
 見透かされている。
 両手を挙げて、京楽は情けない笑みを向けた。一護は厳しい目元を少しだけ緩め、脇息にもたれかかった。
「あんたも大概、意地悪だ」
「そうだねえ。でも、惣右介君に比べたら遥かにマシだよ」
「あれは邪悪と言うんだ」
 思わず吹き出した。本人が聞けばまた黒い笑みを浮かべてくれることだろう。
 目の前の一護はどこか疲れたように目を閉じていた。おそらく藍染にされた仕打ちを思い出して、目眩でもしているのだろう。詳細は知らないが、屈服した様子はないようだ。
「君は良いね。うん、実に良いよ」
「なんだ、今度は褒め殺しか」
「いや、本音だよ。‥‥‥‥あぁ、そうだ! 僕が本当に欲しいもの、今見つかったよ」
 京楽は優雅に立ち上がると、一護の元まで歩み寄った。香が馨る。京楽の好きな香りだった。
 一護の眉間に縦皺が寄る。思い切り警戒されているが、それをすり抜けるようにして手を伸ばした。
「笑って」
 先日二度も打ち据えた一護の頬を、すっぽりと包み込んだ。
 小さい。壊してしまわないように、そっと捉える。
「笑ってほしいな」
 耳の後ろの産毛を撫でる。一護の驚いた顔がまたいっそう幼くて、可愛らしかった。
 十人前と言ったことは謝ろう。肩肘張らないで、笑顔を見せて。
「京楽、」
「春水と」
 うなじに触れ、後頭部を撫でる。そのまま支えて体重をかけ、顔を上向かせて、薄く開いたその柔らかい唇に。
「我が君‥‥」
 触れさせて。

「とうっ!」

 文字通り、視界が回った。
 直後に感じた衝撃に、京楽は「え? え?」と間抜けな声を出す。
「決まった‥‥。夜一仕込みの巴投げ」
「見事じゃ、上様」
 がらっ、と天井の一角が開き、夜一が顔を見せた。
 一護は大仰に両手を払うと、ひっくり返る京楽を覗き込んで不敵な笑みを浮かべた。見たいのはそういう笑みじゃないんだけど、と京楽が呻いた。
「そう簡単にもらえると思うな。努力しろ、努力!」
「どりょく‥‥」
 自分には縁遠い言葉だ。
 あぁでも、あの夜の一護を思い出す。寸前で抱きしめられることを拒んだ一護の顔。極限まで盛り上がった涙は、流れ落ちることはなかった。
 戦ってるんだ。努力して、一人で生きていこうとしてる。
 けれどもなんて寂しい生き方なんだ。
「一護ちゃぁん」
「なんだ。俺の名前を気色悪く呼ぶな」
 そこらの女の子と一緒じゃない。この子には後が無いんだ、だから進むしかない。
 こんな男に寄りかかってしまっては、きっと心が折れてしまうから。
「‥‥‥ねえ、一護ちゃん。僕、もうちょっと良い男になるよ。応援してね」
 少しはマシにはなるから、そのときは。

 笑ってね。

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