家に帰ってからゆっくり見よう
十三番隊の敷地内の一角。人目を避けたその場所に、一護とルキアはいた。辺りの気配を注意深く探りながら、ルキアが懐から大きめの封筒を取り出した。
「例のブツだ」
「これが‥‥‥」
一護は神妙な顔で”それ”を受け取ると、まじまじと見つめた。
丁度両手に収まる大きさの”それ”は、どうしても欲しいというわけではなかったのだが、ちょっとした興味本位から入手してもらったものだった。ルキアが聞けば嘘を吐けと言われるだろうが、決して見たくて見たくて仕方ないとか決してそういうのではない、決して。
「‥‥‥ん? 二冊入ってるぞ」
「あぁ、一冊は我が兄様のものだ」
「頼んでねえし。いらねーや」
「っな、なにを言う! 満を持して発売されたものなのだぞ!? いらぬとはなんだ!」
「だって別に見たくもねえし」
「兄様のサイン入りだぞ!? それでもいらぬと言うのか!!」
封筒から取り出し、表紙を捲ってみると、確かにサインが記されていた。しかも達筆。達筆過ぎて、何を書いているのか一護には解読できなかった。おそらく朽木白哉‥‥だよな?
「まあいいや、もらっとく」
どうでもよさげに封筒にしまい込むと、一護はもう一冊を取り出した。
こちらが本命。一護は少しドキドキしながら、表紙を捲った。
「わっ!」
すぐにぱしりと閉じる。一頁目はどアップだったから驚いた。
早くなる鼓動を落ち着け、再び頁を捲ろうとした一護だったが、すぐ目の前でにやにやと笑うルキアに気がついた。
「なんだよっ」
「いや、何も。見ないのか?」
見るに決まってる。一護はもう一度、今度は恐る恐る表紙を開いた。
「‥‥‥うわー、寝込んでる‥‥‥」
「病弱な隊長の日常を、ドキュメンタリータッチで構成したものだ。タイトルもずばり『病床』だ」
病床。
鬱なタイトルのそれは何かと言うと、十三番隊隊長の写真集である。既に発行からかなりの年月が経っているもので、重版はされていないというそれを、ルキアに無理を言って手に入れてもらったのだ。
それにしても病床に伏す姿なんて、一護他十三番隊の隊員には見慣れた光景だと思っていたが、こうして写真になるとまた違ったものに見えてくるから不思議だった。
「なんだこれ、『苦い薬を飲んで思わず嘔吐く浮竹隊長』? リアルだな‥‥」
他にも、『せっせと氷嚢を自分で作る浮竹隊長』とか、『死んだように眠る浮竹隊長』とか、『庭の木の最後の一葉を悲し気な目で見つめる浮竹隊長』など、よくできているといっちゃよくできている。
「つーかこうして見ると、実はカッコ良かったんだな‥‥」
「一応、完売したほどだからな」
「‥‥‥お前も買ったんだよな?」
少し複雑な心境を視線に乗せて友人を見ると、ルキアはきょとんとして、それからぷぷっと吹き出した。
「なんだ、嫉妬か? この私に?」
「っば、違うっ、‥‥‥‥でも買ったんだよな?」
こうして手に入ったのがその証拠だと言わんばかりに訴えれば、ルキアはあっさりと首を横に振った。
「海燕殿から譲り受けたものだ」
ばさっ、と一護の手から写真集が滑り落ちて音を立てた。
海燕所有の浮竹隊長の写真集。‥‥‥鳥肌が立つほどレアだ。
「誤解するなよ? 海燕殿に特殊な嗜好があって購入したものではないぞ」
口元を引き攣らせる一護に、ルキアが冷静に言葉を挟んだ。
「売れ残ったら可哀想だからと、一冊買ってやったのだそうだ」
「っそそ、そうだよな‥‥っ」
「そうだ。だから妙な皺や染みが無いかと探すのはよせ」
中学生でもあるまいし、とルキアに言われ、一護はようやくまともに写真集に触れることができた。一瞬汚物扱いしてしまって海燕さんごめんなさい。
気を取り直して更に頁を捲ると、一護はカッと頬を赤くさせて硬直した。
「なんだ? ほう、際どいな」
「は、裸っ、こんな、破廉恥なっ、」
「なにを赤面する必要がある、どうせ見たことがあるくせに」
「ねえよっ! ‥‥‥上半身しか」
後半尻窄みの台詞を呟きながらも、一護の視線は写真集に釘付けだった。
寝乱れた浮竹の姿がそこにはあった。腰紐でなんとか寝着が体に巻き付いているだけという、中々に刺激的な一頁。
頬を火照らせ、一護は恥ずかしそうにそっと写真集を閉じた。
一方その頃、海燕は十三番隊の隊主室を訪ねていた。
「あげます」
渡したのはピンク色の可愛らしい封筒。チャッピーのシールで封がされてあった。
写真集を処分、いや再利用した際、交換としてルキアから渡されたものだった。しかし自分には愛する都がいるため、これを一番必要としている浮竹へと贈呈したのである。もちろんルキアも、最初からそうするつもりでいたのは間違いない。
「なんだ、薄いな。薬じゃないのか」
「まあ、ある意味何より良く効く薬かと‥‥」
言葉を濁して退出すると、海燕の背後で雄叫びが上がった。
「っき、際どい‥‥っ、一護、なんて格好を‥‥!」
いい歳して興奮した声を上げる上司に呆れつつ、これで少しは元気になるだろ、と暢気に思う海燕だった。