拍手小説<恋一>

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 君が好きです 

「で?」
 一護は目の前にいる男にこれは何だと問いただした。
「何だよ、それ、」
「手紙、書いたのお前だろ」
「ちっ、違うっつーの、」
 恋次はしどろもどろになった挙げ句、さっと視線を逸らした。それは明らかに自分が書いたと言っているようなものだったが、恋次は素直には認めようとはしない。
 正直に白状しない恋次に焦れて、一護は最後の手段に出た。
「じゃあ朗読しまーす。<君が好きです ずっと好きです たとえ>」
「どぁー!! やめろやめろっ!!」
 恋次は手紙を奪い取ろうとしたが一護はそれを躱し、なおも朗読しようとする。
「俺だっ、俺が書いたんだよチクショー!」
 ようやく認めた男に一護はにやりと笑った。そもそも阿近に指紋を調べてもらって、書いたのは恋次だと分かっていたのだ。
 だがなぜ恋人である自分に今さら恋文を出すのかが分からなかった。
「何? こういうプレイなのか?」
「アホか! どういうプレイだ!」
 真っ赤な顔で叫んで、自分の書いた恋文を奪い返した。これを出したとき、一護なら丸めてポイすると思っていたが、皺一つ無い形でとっておかれていたことに恋次は意外に思ってしまった。
「返せよ。それ俺のだぞ」
 そう言ってくれるのも嬉しいと恋次は密かに思った。一護は他人に対して淡白なところがある。自分がその淡白である対象に加わらず、かつ恋人になれたことは奇跡に近い現象だ。
 そんな想いを手紙にしてみたのだが、まさか目の前で朗読されるとは思わなかった。
「手紙にしなくても直接口で言えばいいじゃねえか」
「恥ずかしいだろ。だから手紙にしたんだよ」
「ふぅーん」
 一護にはその心情がよく分からない。確かに恋次は気持ちを素直に表現するのが得意ではないが、そんなもの、一護がちょっと着物を脱げばぽろぽろと言葉にしてくれる。
 好きだとか愛してるとか、それこそ一生分とも思えるほどたくさん言ってくれるのだ。今さら手紙にしなくても、恋次の気持ちなんて一護は知っていた。
「手紙なんて、なんか学生時代に戻ったみたいだ」
「はぁ? 貰ったことあんのかよ」
「<殺す>とか<ちょっと校舎の裏に来い>とか。熱烈な内容ばかりだったな」
 いわゆる呼び出し状だったが、一護にとっては懐かしい思い出だ。中にはちゃんと恋文も含まれていたが、それを言うと恋次がうるさく言ってくると分かっていたので一護は黙っておいた。
「嬉しい。ありがとな、恋次」





 君が好きです
 ずっと好きです
 たとえ死んでもこの想いは消えません
 いつまでも
 想っています

 何度も何度も読み返すと、一護は手紙を折り畳み文箱へと大事にしまった。が、思い直してすぐに手紙を取り出すとまた読みはじめた。
 自然と笑みがこぼれる。手紙をもらってこんなに嬉しかったのは初めてだった。
「また読んでんのか」
 読み返していた手紙を横合いから奪われ、それと同時に背中に温もりが下りてきた。
 肌同士が触れ合って心地よい。普段なら重いと撥ね除けるところだが、手紙をもらった一護は機嫌が良かった。髪やうなじに唇を落とされ、胸に触れられても一護は笑みを浮かべて受け入れた。
 しばらく戯れ合っていると、恋次がぽつりと呟いた。
「これがあれば、俺が死んでも想いは残るんじゃねえかって思ったんだ」
 その言葉にはっとして、振り返ると唇を重ねられた。さらりと赤い髪が恋次の肩をすべり、一護の視界の端に映った。
「死んだらお終いだ。俺はそれが怖い」
 いつになく不安げに瞳が揺れていた。一護はそれを払拭するように、恋次の背に手を回した。
「覚えていてくれ」
 自分のことを。
 まるで明日いなくなるような台詞だ。そんなことはないと、一護は必死に恋次に縋り付いた。
 覚えていてくれなんて、なんて切ない言葉だと思った。切なくて、涙が零れる。
 そして一護はそっと恋次の耳に囁いた。

 君が好きです いつまでも


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