拍手小説<企画、幼馴染もしも編>

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 おかしい。タネを仕込んだ筈なのに。
「やった! 一護、やったぞ!」
「ああ、やっと決まったか」
 全身で喜びを表す夜一に対し、一護はどこまでも冷静だった。
「ふふんっ、喜助のやつ、真っ白になっておるわ」
 茫然自失の浦原をつんつんと突いてやったが微動だにしない。夜一は同情するどころか増々勝利を確信し、満面の笑みで一護に抱きついた。
「これでずぅーーーーっと一緒じゃ!」
 その言葉に浦原はぴくりと反応した。
「これからも頑張ろうな、ふたりで!」
「お待ちなさいっ!!」
 一護と夜一の間に割って入ると納得できないとばかりに喚いた。
「やり直しですっ、こんなの、ある筈が無い!」
 そう、ある筈が無いのだ。一護が護廷十三隊に入るよう自分が細工したのだから。
 だが往生際の悪い浦原を嘲笑し、夜一はトドメの言葉を言ってやった。
「諦めろ、一護は今日から隠密機動じゃ」






「離れろっ、この変態!」
 先ほどから自分の背中に張り付いて離れようとしない男の金髪を一護は思い切り引っ張ってやった。
「嫌です嫌です! こんな格好をして外になんか行ったら大変ですよぅ」
「大変なのはお前の頭ん中だ! ああこらっ、においを嗅ぐな!!」
 むきだしの背中にしがみつき、ふんふんとにおいを嗅ぐ男に一護は鳥肌を立てた。
「この刑戦装束のスバラシさは認めますが、アタシ以外の男に見せるなんて許しません!」
 健康的に焼けた一護の肌にすりすりと頬を寄せ、ついでにぺろりと舐めた。
「ぎゃー! てめっ、この、」
「太腿も横乳も全部アタシのものですっ」
「手を入れるな! 殺されたいかっ、ああもうやっぱり殺す!」
 袴の脇から除く太腿に触れられ、浦原曰く横乳に触れられそうになった一護は今度こそ殺意を込めた後ろ蹴りを繰り出した。
 それは寸前で躱されてしまったが、体から離すことには成功した。
「何で軍団長でもない一護サンが刑戦装束を着なきゃならないんですかぁっ」
「お揃いだそうだ」
 そう言う一護はもう諦めているのか首にはめたチョーカーを弄っていた。その動きに浦原が目を凝らしてみると、それとまったく同じものを見た覚えがあった。
「それっ、夜一サンのっ」
「ああ、これもお揃いだとよ」
 その言葉に浦原は目を剥いた。そして悔しいとばかりにチョーカーを睨みつけ、なんとかそれを外してやろうと手を伸ばす。
「そんなもの外しなさいっ、アタシがもっと似合う首輪を贈って差し上げます!」
「いらねー! 首輪ってお前、何考えてるっ」
 おそらく一護の想像通りだろうが口に出すのも嫌だった。
 じりじりと後退すると浦原もじりじりと前進し、一護を追いつめてくる。
「そんな脱がしやすそうな着物を着るなんて夜一サンが許そうともアタシが許しません。脱がしていいのはアタシだけだって今ここで誓ってくれるんなら許して差し上げますけど」
「お前はどこまで自分に都合がいいんだっ」
 長い付き合いで知ってはいたが、毎回毎回驚かされる。
「アタシは一護サンの為に言ってるんです。背後から鋏で襟首をチョキンとやられたら一発じゃないですか」
 誰がそんなことするんだと思ったが一護は黙っていた。そんなこと、この目の前にいる男しかしない。
「‥‥‥分かった」
 うるさい幼馴染を黙らせるため、一護は譲歩することにした。





「ああ駄目です、一護サン、そんなの、余計駄目です、ぁあ‥‥!」
「気色の悪い声を出すな」
 自分の姿を見て悶える浦原に本気の恐怖を感じてしまう。
 浦原はどこか紅潮した顔で一護を凝視していた。
「羽織を着たって駄目ですよぅ、なんかチラチラ見えて、そんな、想像を掻き立てるような、」
「何想像してんだっ」
 目立たない色合いの羽織を上から着てみたのだがどうやら逆効果だったらしい。こちらをじっと見つめる浦原の視線が怖くなって一護はさっと羽織を掻き合わせた。
「一護サンてば、何でアタシのツボを知り尽くしているんですか。天然? 恐ろしい人だ‥‥‥!」
 俺はお前が恐ろしい。
 一護はひくひくと引き攣る口元を抑えきれず、一歩二歩と後退していった。
「アタシ、どうしたらいいんですかっ」
 凄まじいジレンマに襲われた浦原がぱっと顔を上げるとそこにはもう一護はいなかった。目の前の隊舎の屋根から屋根へと飛び移る一護が見え咄嗟に追いかけようとした浦原だったが、それは断念せざるを得なかった。
「‥‥‥‥‥!!」
 ひらりと翻った羽織。ばっちり見えた一護の背中が浦原の心臓を鷲掴んだ。
 目に焼き付いて離れないそれに、浦原はしばらく動くことが出来ないでいた。


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