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  The handmade heart  


 一護が死神となっている間はオレ様が生身の体を預かるわけだが。
「いいか、碌でもねえことしたらぬいぐるみのほう引き千切って次はコケシに入れてやるからな」
 そういう脅しを受けての留守番。
 最初はびくびくしていたものだが慣れるとあれだ、段々余裕が出てくるものだ。
 なんたって年頃の娘の体。ちょっとくらい触ってもいいよな、という誘惑に負けて触ったことがある。
「なんだ一護の奴貧乳じゃねえかハッハー!」
 と笑ってやったが虚しくなったのですぐにやめた。本人に言ってからかったらコケシに入れられるので黙っておいた。ケツのほうはまあまあだった。
 一護がいない間になんか弱みでも握ってやろうかと部屋を物色したこともある。そしたら出てきたのがコレ。
 ぬいぐるみ。
 クローゼットの一番奥に突っ込まれていた。オレンジ色の猫のぬいぐるみだ。メーカー名が付いていなかったから妹が作って一護にやったんだろう。それにしても一護がぬいぐるみ、ぷぷっ。
 そしてオレ様が二度とすまい、と誓った悪戯がある。
 一護になりすまし、男共をからかうことだ。
 一度赤い頭の刺青男に「れ、ん、じ」なんて可愛い声出して背中に抱きついたら即効で押し倒された。しかも「実は俺も」だとか「痛かったら言えよ」とか、あぁコレやばいなマジやばいと思った瞬間にネエさんが帰ってきてくれたから助かった。もう少しで男にヤられるとこだった。ヤられるのならネエさんみたいな女の子がいい。
 そんなこんなで一護の体に入るのも日常茶飯事になった頃。
「っこ、っこ、っこれは!」
 今日はなんか暑かったから上に着てたパーカーを脱いだ。そしたらっ。
「キス、マーーーク!」
 紛うこと無くキスによってつけられたマークが一護の胸元にあった。服に隠れてぎりぎり見えないところだけど、オレ様は見つけてしまったのだ。慌てて他も探してみたら出るわ出るわ。
 特に多かったのが首筋。それも後ろ。
 鏡の前で愕然とした。
 後ろからヤられたのか、一護‥‥‥‥!
 想像して死にたくなった。よく分かんねえけどすっげえショックだった。
 あの一護が、あの、
「ぎいいいいい!」
 ほんとに訳が分かんねえっ、分からん!
 あの一護だぞ? 貧乳で男よりも男らしくて腕っ節も強いあの一護を。
 一体誰が抱いたっていうんだ。抱けるのか、あれを?
 赤頭か、あのハゲ頭も怪しい。ナルシストは違うと思いたいがこの間一護の髪を嬉しそうに弄ってた。チビは無いな、サイズ的に。いやでも一護が上になって攻めたら
「ヤメロっ、それはいくらなんでも!」
 ありえねえありえねえ。誰かありえねえって言ってくれ頼む。
 そこで俺はハッとした。
 そうだ別にキスマーク=食われた、では無いかもしれない。一護の体はまだ清いんじゃないのか、うん、きっとそうだそうに違いない。お願いそうであって。
 自然と座り込んだら太腿が視界に映った。短パンから伸びる一護の足。引き締まってるこの足は俺も綺麗だと思う、そこに。
「うぎゃあっ」
 お前もかブルータス!
 太腿の内側にキスマークがあった。ありました。死にたい。
 一護お前何されてんだよ、こんなとこに男の顔を持ってこさせるなよっ。お前だったら蹴り入れて叩きのめしてるだろっ。
 こんなとこにキスされてて実は処女とかもうありえない。淡い期待に縋りたいけどありえないよな。
 一護の花は既に散らされている。決定。ジ・エンド。
「イーヤー!!」
 まだ十六だろっ、早すぎる! 交尾と飲酒喫煙は二十歳になってからだろ!
 一護め、俺だなんて言ってるくせに、貧乳のくせにっ。
 それにしても誰だコノヤロー。相手はどこの誰だ。浦原だったらどうしよう。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 想像してゾッとした。あの男だけは、駄目だ。
 でも一番有力かもしれない。尸魂界に行くとき世話になってるし、何だかんだ言って一護はアイツに一目置いてるみたいだし。会うたびになんか迫られてたし、一護もまんざらでもなかったような気がしてくる。
 だからと言って体を許すのかよっ、お前はそんな奴だったのか!
「見損なったぞ一護ォ!!」
「なんでだよ」
 振り返れば一護がいた。隣にはネエさん。
 オレ(正確には一護)の痴態を呆れた顔で眺めていた。
「俺の顔で馬鹿なこと叫んでんじゃねえよ」
 即効でオレは一護の体から出された。一護は自分の体に戻る。
 しかし、オレってばパーカーを脱いでしまったんだよな。
「ーーーむ? 一護、それは」
 さすがネエさん。めざとい。
 そしてオレは逃げたい。
「チスマーク、とやらではないか?」
 あぁああ‥‥‥‥。
 オレは項垂れた。まだぬいぐるみに入ってないからそれはできないけど気持ちだけ。
「っは、はぁ?」
 うわー一護、思いっきり声が上擦ってるぞ。
 やましいことがありまくりだぞ今のお前。
「そうか、背後から抱かれたのだな」
 ド直球。
 ネエさん、もうちょっとこう、オブラートまでとは言わない、ビニール袋くらいでいいから包んで言ってほしかった。
「なに、言ってん、だ」
 一護、もう諦めろ。
「で? 相手は誰なのだ」
 聞きたいものすごく聞きたい。
「恋次か、一角殿か、弓親殿か? 日番谷隊長はサイズ的に‥‥‥いやいけるか。お前が上になればよいものな」
「ハァ!?」
 ネエさんすいません、今の貴方には正直萎えました。
 一護はなんかもう死にそうになってる。
「よもや浦原などとは言わぬだろうな? 変態プレイに目覚めるぞ」
 あぁ、好きそう。
 いやそんなことはどうでもいい。一護、誰だ、相手は一体誰なんだ。浦原以外で頼む。
「‥‥‥‥‥む、むし、」
「なんだ? 虫刺されと言いたいのか貴様。刺されたのはもっと別のところだろう!」
 だからやめてくださいネエさん。あんた清楚な顔してどんだけ下品なんだ。
「吐け! 楽になるぞ」
 ネエさんが迫る。
 逃げられないぞ一護。言って楽になっちまえ。
 一護!
「‥‥‥‥‥‥‥‥ぁあっ、虚だ!!」
 あと少しで落ちる、てところで虚の出現を知らせる音が部屋に鳴り響いた。
「ぉおお俺行ってくるっ、ルキアお前は来なくていいからな!!」
 死神化すると一護は転げるように窓から外へと出て行った。あっという間。さすがのネエさんも動けなかったようだ。
 しばらく義魂丸のオレとネエさん、二人の沈黙が続いた。
「コン、ぬいぐるみに戻れ」
 そのとき見せたネエさんの表情にオレは察してしまった。
 ネエさん、一護が帰ってきたら本体を人質にするつもりですね。汚い人だ。
「絶対に吐かせてやる」
 そう言ってネエさんは机の引き出しを開けた。オレのライオンボディを投げてくれるかと思いきや、ネエさんは開けたままの姿勢でなぜかぴたりと止まってしまった。
「‥‥‥‥‥そうか、そうだったのか」
 っふ、と笑うとネエさんは今度こそオレに向かってライオンボディを投げてくれた。その口元はオレのところへとジャストミートして、ようやく自由に喋ることが出来るようになった。
「何です、ネエさん?」
「いや、詮索はよくないと思ってな」
「今さらじゃないですか」
「一護の忍ぶ恋を応援してやろうではないか、なぁ?」
 さっきまで直球ストレート投げまくってた人の言うこととは信じられない。
 2ストライクまで追いつめといて敬遠とは、一体何があったんだ?
「私はもう寝る。お前も大人しくしておけよ」
 急にいい人になったネエさんはそのまま部屋を出ていってしまった。オレはぽかんと見送って、それから一護が出てった窓へと視線を移した。
 ‥‥‥‥‥分からん。女は分からん。
 綿の詰まった頭で考えても仕方ない。オレは大人しく机の引き出しに戻ることにした。そこでネエさんが何を見て態度を変えたのか理解に苦しむが、まぁいいいつか分かるだろう。
「ん?」
 そこにはあのオレンジ色の猫のぬいぐるみが鎮座していた。一護、置き場所変えたのか。
 オレはそいつを脇にどかすと寝る体制に入った。
 ‥‥‥一護、一体どこのどいつなんだよ。
 八つ当たりで隣の猫を蹴っ飛ばす。べしゃりと潰れたそれを見て、オレは少し満足したのだった。

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